※ これ や これ とはまた違った設定の未来捏造になります ・図書館組→カグラの計らいで全員機構に戻ってる ・ラグナ→たまにジンやカグラの手伝いはするけど基本根なし草 程度の緩い設定しか考えてないので、ゆるーく読んで下さい。 「カグラあぁぁぁぁっ!」 午後の日差しも麗かな、世界虚空情報統制機構の敷地内。 この世が数多の戦士たちによって"滅日"を回避してから、もう直ぐ一年と半年が過ぎようとしている。手放しに平和とは言い切れずとも、それなりに平穏な日々が送られるようになってから久しく聞いていなかった怒号と悲鳴が、まさしく今、機構の内部に響き渡っていた。 「あん…っのクソ野郎!何処にいやがる、ブチのめしてやるから出て来いコラァ!」 「ら、ラグナさん落ち着いて下さいっ!これじゃあ本当に捕まっちゃ…ひゃあぁっ!」 騒ぎの原因は、一人の男と一人の少女だ。元より鋭い目を更に釣り上げ、怒髪天の勢いで廊下を走る男を止めようとしているのだろう。涙目―――実際は少し泣いている―――の少女が半ば引き摺られるようにして、彼の腰にしがみ付いている。 男の名はラグナ=ザ=ブラッドエッジ。少女の名はノエル=ヴァーミリオン。信じ難いが、二人とも"滅日"を阻止した立役者の一人である。 「カグラっ!テメェ、一体何のつもりだ!」 建物の最奥。重厚な扉を蹴り開けた先に、ラグナが探していた人物がいた。 奔放を絵に描いたようなその男は、珍しく秘書官を傍らにマトモに執務机に身を置いて、これまた珍しく真面目に分厚い書類に目を通している最中だった。明らかに不穏なオーラを撒き散らしているラグナを見止め、しかし男は余裕の顔でへらりと笑ってみせる。 「よーぉラグナ、久しいな。ざっと二ヶ月振りか?」 「ラグナさん、お久しぶりです」 男が男ならば、その秘書官も大概豪胆だった。まだ青年の域に達していない線の細い少年も、上司に倣い完璧な営業スマイルで小さく頭を下げる。 「カグラさん、ヒビキさん…ごめんなさい。お騒がせしますぅ…」 「大丈夫、大丈夫。ノエルちゃんの可憐な細腕で、こんな図体のでかい野蛮な野郎を止めるのは難しいもんなぁ?」 「誰が野蛮だコラ。偉そうに踏ん反り返ってんじゃねぇぞテメェ」 「偉そうじゃなくて、実際ここじゃあお偉いさんだからなぁ、俺様。悪ぃ悪ぃ」 ギシ、と上等な椅子に背を預け、人を食った様な笑みを浮かべるこの男。実質統制機構のトップに君臨しているカグラ=ムツキは、ラグナの威圧にも楽しそうに紫紺の目を眇めるばかりだ。 「ともかく、ちゃんと自分の足でここまで来たのは感心だ。咎追いなんぞにしょっ引かれてこようもんなら、遠慮無く地下牢にブチ込もうと思ってたんだが…」 扇子代わりにひらひらと振られている書類をカグラの手から引っ手繰ると、ラグナは八つ当たりそのものの勢いでそれを執務机の上に叩きつけた。紅翠の双眸を完全に据わらせてカグラを睨めつける姿は、完全にチンピラのそれである。 「舐めくさった事言ってんじゃねぇぞ、あぁ?これがどういう事か、きっちり説明して貰おうじゃねぇか!」 そうしてラグナが懐から取り出したのもまた、一枚の紙切れだった。カグラの目の前に突き出されたそれには、彼の―――ラグナ自身の似顔絵が、人相の悪さ六割増で描かれている。子供ならば大声を上げて泣くレベルの凶悪さで、だ。 「ああ、それ?ツバキ渾身の作だ、良く描けてるだろう?愛しい兄様を現在進行形で誑かしてるお前への怨念が、紙面の上からもヒシヒシと…」 「そっちじゃねぇよ!」 その渾身の作とやらの下部には、一目では数を把握出来ない程のゼロを並べた金額が。そして上部には『WANTED!DEAD OR ALIVE』の文字が踊っている。 WANTED。言うまでも無く、お尋ね者の意だ。つまりこれは――― 「見たまんまさ、お前の指名手配書だ。莫大な懸賞金付きの、な」 「だぁからっ!何で今更俺にそんなもんが掛かってんのかって聞いてんだよっ!」 のんびりと机上に頬杖を付くカグラに、ラグナは唸り声を上げて詰め寄る。 確かに数年前は統制機構の支部を潰して回り、やれ死神だSS級の賞金首だと図書館や咎追いから追われる身だったラグナだ。今でこそ秘密裏に弟やカグラから図書館に関わる手伝いを請け負う事こそすれ、再び懸賞金を掛けられる謂れなどない。 今回だって、カグラが「何処其処の階層都市の動きが不穏なんだが、調べに行かせる人手がない」などと言うから、ラグナが代わりに調査に行っていた最中だったのだ。 「だってお前、俺らが渡した通信端末壊したんだろ?こっちから連絡取ろうにも、手段がねぇんだもん。それなら手配書でも作ってばら撒けば、向こうから殴り込みに来るだろうって、あいつが…」 「…あ?」 その際、連絡用にと持たされた通信端末が壊れた―――断じて壊したのではなく、不慮の事故で壊れただけだ―――事は、"あいつ"にしか伝えていない。 「確かに、この手配書を作れって指示を出したのは俺だがな。発案者は別にいる」 「まさか…」 その時だ。ラグナがここに押し入ったのに勝るとも劣らない勢いで、部屋の扉が開かれたのは。 「遅かったじゃないか」と手を振るカグラの視線を追い掛け、ラグナは背後を振り返る。 「兄さん…っ!」 「ジン…!」 そこに居たのは、果たして件の"あいつ"―――ラグナの実弟であるジン=キサラギだった。今ではすっかり見慣れた執務服姿のジンはラグナの姿を視界に入れるや否や、無駄に整った美貌をぱっと輝かせる。そこだけ見ればここが昼下がりの室内な事も相俟って、まるで日向色の花が綻んだようだった。 「やっぱり!兄さんの声が聞えた気がして来てみたら…。僕の考えは当ってたみたいだね!」 「くっそ、全部テメェの仕業かよ…!」 盛大な舌打ちと悪態を同時に吐き出す兄に対して、弟の方はすこぶる上機嫌だ。少女のように胸の前で指を合わせ、白い頬を淡く染めたまま、コトリと小さく首を傾け微笑んでいる。 「うん、そうだよ。でもそんな事、今はどうだっていいじゃない?折角久しぶりに…二ヶ月と三日ぶりに会えたんだから、さ」 けれど、ラグナは知っていた。"こういう"時のジンは、とてもとても厄介なのだと言う事を。 兄の懸念は、早々に確信となった。ひやりと、急速に室内の温度が下がっていく。兄弟の顔をオロオロ見比べているノエルをカグラが手招いて、ヒビキと共に自分の後ろに避難させた。 ジンが合わせた両手を横に開く。そこに現れたのは、青い鞘を持つ細身の剣―――否、刀だ。 意思を有する氷刀、アークエネミー・ユキアネサ。 ふわり舞う雪の結晶の向こうで、ジンが口角を引き上げる。紅潮した頬はそのままに、歓喜に上擦る声で叫んだ。 「少し僕と遊んでよ…にいさぁんっ!」 「あーもー、相変わらず面倒くせぇなお前は…っ!」 タンッ、とジンのブーツが床を蹴る音を合図に、ラグナもまた腰に差していた大剣を抜いた。あっという間に己の間合いまで距離を詰めたジンの一撃を、幅広の刀身で受ける。刃の擦れ合う耳障りな音が、部屋の中に響き渡った。 横薙ぎに振り抜かれた斬撃をいなし、間髪入れず繰り出された飛び蹴りは腕を上げて防ぐ。室内というのが邪魔をして、足首を掴んで放り投げる事も出来ない。すっかり対戦モードの弟とは違うのだ。無駄に怪我をさせるのは、兄の本意ではない。 しかし兄との対峙においてのみ、弟は退くと言う言葉を忘れてしまうのだ。嬉々として防戦一方のラグナに追い縋り、畳み掛ける様な攻撃を繰り返す。 「どうしたの、にーぃさん?僕からばっかりじゃあつまらないよ」 何度目か得物同士を合わせ、競り合う。間近に迫ったジンの緑瞳は、久方ぶりに兄と剣を交える興奮からか、熱をもって潤んでいた。チ、とラグナは今日幾つ打ったか分からない舌打ちを零す。 「そりゃあ、お前が勝手に斬り掛かって来てるからだろうが!」 相変わらず、ジンの甘え方はアグレッシブだ。着いていけない。ユキアネサごと弟の体を押し返せば、左肩から垂れた飾り布がひらり翻る。戦闘を想定していない仕立ての服は、上等だがその分頼りない。現にジンの体を包む服の裾が、ユキアネサの冷気に耐えきれず凍りかけている。 「つーかテメェは!その服でユキアネサぶん回してんじゃねぇよ!風邪ひくだろ!」 ―――突っ込む所そこかよ、と。 この場に居合わせた兄弟以外の全員が思った。次いでノエル以外の二人が、このブラコン、とも。 再会後それなりの月日を経て兄のツンデレを理解し始めてきた弟は、分かり辛いラグナの甘やかしに嬉しそうに笑ってみせた。 「うん、わかった」 綺麗な弧を描いた唇から良い子の返事が聞えた、その瞬間。 キィンと澄んだ音を立てて、ジンの手からユキアネサがかき消えた。丁度空中に跳んだ弟が、地上の兄へと抜刀攻撃を繰り出そうとしていた時である。 自ら進んで丸腰になったジンは、そのまま慣性に従いラグナの元へと降ってきた。 氷の刀刃を受けようと、大剣を構えたままのラグナの元に、だ。 「馬…っ鹿か、テメェは…っ!」 心からの罵倒と共に、ラグナは慌てて手にした剣を投げ捨てる。その先にあった革張りのソファが裂ける音が聴こえたが、図書館の―――それもカグラの部屋の備品ともなれば、果てしなくどうでもよかった。 それより今は、目の前の弟だ。相も変わらず、突飛な行動しかとらないジンの事だ。 無事に空いた両手を伸ばし、兄は飛び込んできた弟の痩躯を危なげなく抱き止める。相変わらずの軽さだ。否、最後に抱えた時よりも、体が薄くなっている気がする。少し目を離すと、すぐこれだ。どうせまた、まともな食事も取っていないに違いない。 眉を顰める兄の内心など知らない弟は、細い腕をラグナの首に回すと、幼い仕種でぎゅうとしがみ付いてきた。 「ふふ、捕まえた」 「捕まえたじゃねぇよ、この馬鹿弟が!俺が剣捨てんのが遅かったら、今頃真っ二つだろうが!」 「兄さんがそんな事出来る訳ないもん。だから平気だよ」 あっけらかんと笑っているジンとは対照的に、ラグナの心中は荒れに荒れていた。何せ一歩間違えば、弟に大怪我をさせていたのだ。それをこの馬鹿は、先程までの危機など何処吹く風で兄の胸にごろごろと懐いている。 今日こそはもう二言三言怒鳴ってやらねばと口を開いたところで、ジンが徐に顔を上げ、兄の顔を見つめてきた。 「ねぇ兄さん、びっくりした?」 「あぁっ?」 これがふざけたトーンで発せられた言葉なら、その小振りな頭を小突いていたところだ。しかし一心にラグナを見上げるジンは真面目そのものの表情をしている。 「僕が死んじゃうかもって思った?少しくらい、心配してくれた?」 「んなの…っ」 ビビったに決まってる、と。素直に溢すには、兄の矜持が邪魔をする。思わず口篭るラグナに、弟は物憂げに長い睫毛を伏せた。 「…僕は、ずっと心配だったよ」 兄のジャケットの胸元を握り締める細い指が、微かに震えている。急に大人しく、素直になるのは反則だ。何も言えなくなってしまう。 「兄さんが強いのは誰より知ってるし、無事だって信じてるけど…時々凄く無茶もするでしょう?もし怪我して動けなくなってたり…僕の知らないところで居なくなっちゃったら…どうしようって…」 最後の方は涙声で、よく聞こえなかった。もちろんジン直通の電話番号くらいは覚えていたし、一般回線を使えば連絡は取れるが、元来マメではないラグナだ。便りが無いのは元気な証拠とばかりに、週に一度の定期連絡すら怠っていた。 自らの怠惰がここまで弟を不安にさせていたとなれば、罪悪感どころの騒ぎではない。 「だから、お願い。決まった連絡くらいは…ちゃんとして」 いつになくしおらしい態度の弟を腕に抱いたまま、兄は思いを巡らせる。 例えばこれが、逆の立場だったらどうだろう。もし任務に向かった先で、ジンからの定期連絡が途絶えたら、自分はどうするだろうか。 ――― 一度の連絡が途切れただけで、もう無理だ。誰に止められようと、探しに行くに決まっている。 「…悪かった。心配かけたな」 肩口に埋まった金色の頭を撫でてやると、事態の収束を見取ったノエルがほっと胸を撫で下ろしたのが見えた。 一方ラグナの手のひらに甘え、ぐいぐいと身を押し付けてくるジンは、まるで小動物のようだ。うっかり吹き出してしまったのを咎めるように、ジロリと水の膜を張った両の翡翠がラグナを睨めつける。不満げに頬を膨らませている姿は丸きり子供じみていて、どうやら拗ねさせてしまったようだと知った。 「…僕、怒ってるんだけど」 「わかってるよ。今日は兄ちゃんが何でも言う事聞いてやるから、機嫌直せ」 「もう、子供扱いして…」 「日が出てる内くらいはな」 子供扱いは昼間だけだと。言外に夜の事を匂わせれば、弟の白い頬にサッと朱が差す。普段のジンの言動の方が余程大胆だと思うのだが、これのこういう初心なところは可愛いと言えるかもしれない。 涙を吊るった目尻に唇を落とし、すっかり痩せてしまった弟の体を抱きしめる。そういえば、こうしてジンに触れるのも二カ月振りだ。どうやら過労の気のあるこいつを連れて、今日はもうこのまま帰ってしまおうか。 正に弟の上司の前でサボタージュの算段をしていたラグナは、そこではたと第三者たちの存在を思い出した。 「おいお前ら、あんまり俺の部屋でイチャつくな。泣くぞ」 そこで漸く発言を許された第三者こと、この部屋の主であるカグラは、未だべったりとくっついたままの兄弟を何とも言えない表情で眺めていた。彼の後ろにいたノエルとヒビキは茶でも淹れに行ったのか、何時の間にか居なくなっている。 「喧しい。つーかテメェ、こんなペラペラになるまで人の弟コキ使ってんじゃねぇよ」 そうでなくとも、存外仕事には真面目な弟だ。口ではカグラを扱き下ろしながらも、上官であるムツキ大佐の命にはきちんと従うのを、ラグナは知っている。 弟を抱く手に力を込めカグラを威嚇する様は、正真正銘の兄馬鹿だ。しかしここ数日目が回る程に多忙なのも、そうなると真っ先に食事の時間から削りはじめるジンが痩せてしまっているのも事実なので、カグラは大人しく己の首の後ろを擦るに留める。 「そいつは耳の痛い話なんだがな…。けど、こっちは暢気に休暇も取ってらんない状況な訳よ。だからこんな手間掛けてまで、お前を呼び出したんだろうが」 俺だって、ここ三日間ロクに寝てないんだからな、と。欠伸を噛み殺すお偉いさんの目の下には、確かにくっきりと隈が出来ている。常のヘラヘラした態度を崩してなかったものだから、気付くのがだいぶ遅れた。服を引かれる感覚に視線を下げると、すまなそうに肩を竦めたジンが上目使いでラグナを見上げている。 「ごめんね、兄さん。でも…今は一人でも多く人手が必要なんだ」 眉根を下げ、殊勝な表情を作った可愛い弟の面には、「だから手伝って?」とはっきりくっきり書いてあった。本当に今更だが、ラグナはしおらしいジンにすこぶる弱い。それは惚れた弱みか、はたまた兄としての本能か。どの道ジンの頼みを、ラグナが無下に出来る筈もないのだ。 仕方ないと形だけの溜息を一つ吐き、弟の頭を少しだけ乱暴に掻き回す。 「―――何があった?」 「そう来なくちゃな、お兄ちゃん」 ラグナの応えにカグラはニンマリと笑みを浮かべると、先程机に叩き付けられた書類の一枚をこちらへ渡して来た。 「…今から丁度、一週間前だ。事の発端は―――」 続かないよ…!\(^o^)/ GG2やXrdで手配書使ってソルを呼び出すカイに萌えたので、兄弟でやってもらいました。 が、どうしてソルカイみたいな熟年夫婦っぷりが出ないのか不思議でなりません…。解せぬ。 2014.04.21. pixivにアップ 2014.04.26. サイト掲載 |