「たまにはもっと、可愛いものを飲んだらどうです?」 ウィスキーやブランデーもいいけれど。 カシスやキュラソー、ディタにスイート・ベルモット。 たまには普通の女性が好むような、甘い甘いリキュールを。 「はい、ミス・スメラギにお土産。これ、ミルクで割ると美味しいですよ」 「あら、ありがとう。…でも、私の柄じゃないわね」 「いいんじゃないんですか?誰も咎めたりなんかしない」 俺ってば、強がってるお姉さんを見ると、つい甘やかしたくなるんですよね。 そんな余裕なんか無いくせに。そう言って、記憶の中の彼は端正な顔に人好きのする笑みを浮かべる。 今の今まで忘れていた、棚の奥深くに仕舞っていたミドルサイズの黒い瓶。 彼の故郷の、甘く優しいクリーム・リキュール。 封を開け、スメラギはそれをグラスに注ぐ事無くそのまま煽った。 「…甘えてなんか、いられないわよ」 ぐい、とグロスごと唇を拭って、彼女は一人の女から戦況予報士の顔に戻る。 2008.03.19 ×スメラギ ベイリーズ、ストレートもアリとのこと 「俺は、ニールみたいに残酷じゃないよ」 あいつと同じ顔、同じ声をして、全く別のこいつは笑う。 「お前が本当に欲しかったものをあげる。許され、ゆっくりと真綿で締め付けられるような苦しみじゃない。憎しみに身を焼かれるような、狂おしいまでの…罰を」 喉元に絡みつく指。これも、同じ温度だ。 塗り潰されそうになる、あいつを。 「愛しているよ……セツナ」 さも愛しそうに細められる、海色の瞳。 ――― ああ、お前も充分残酷じゃないか。 2008.03.20 ロックオフ×刹那 黒オフ 誰かに呼ばれた気がして、顔を上げた。 曇天の空。ざわり、吹いた風に煽られた髪を押さえ、振り返る。 雨の匂い。 ああ、今日は傘を持ってきていないから、早く帰らなければ。 ぽつ、と頬を濡らした水に指を伸ばし、触れる。 てっきり雨粒だと思ったそれは、しかしどうやら自分の左目から溢れたもののようだった。 指先を湿らせたそれを見やる碧の目が、ゆっくりと瞬く。 「――― ニール?」 2008.03.21 ×ロックオフ 白オフ この指が触れるか触れないかの距離で。 ひくり、と怯えたように強張った体に、自分がどれだけこいつを追い詰めてしまったのかを知った。 見開かれ、不安定に揺れている紅茶色の目。 そんなお化けにでも会ったような顔すんなって。ほら、ちゃんと生きてるだろ? 解ってほしくて、そっと、まだ丸い子供の頬を包むように撫でる。相変わらずの、子供体温。 ―――愛しくて、たまらない。 「どう、して…?」 「だってさ。お前…泣いてたろ」 きっと、走馬灯が駆け巡るくらいの極限状態が見せた、俺の都合のいい妄想かもしれないけど。 エクシアのコックピットでたった独り、慣れない涙を流しながら俺を呼ぶお前の姿が、見えた気がしたから。 「だからおにーさん、当初の予定を変更して戻ってきたわけよ」 ―――ああ全く、自分でも不謹慎だと思うよ。 今もこうして俺の手を濡らしていくお前の涙を、こんなにも嬉しく思う事を。 「……ごめんな。怖い思い、させちまったな」 あやすように目元を拭ってやって、細い体を目一杯抱きしめる。 ―――なぁ、前に進みたいって思ったんだ。 あんなに足踏みばかりをしていた俺が。ただ見守るだけだったお前の背中を捉えて、その隣へ立ちたくなった。 他の誰でもない。お前の、隣に――― 「ただいま……刹那」 これを未練と言うのなら、存外それも悪くない。 2008.03.22 ×刹那 ふっきれた大人は、きっとすごくかっこいい ロックオン生存祈願。 振り返ってみれば、一週間連続更新でした。 ここまでお付き合いくださって、ありがとうございます! |