original sin


「……ソラン」
 甘く、耳元で囁かれた言葉に血の気が失せた。
 身体の強張りは、恐らく彼にも伝わってしまっているだろう。それを証拠に、「悪い」短い謝罪と共に抱きしめれていた腕の力が僅か、強まった。
「けど、いい響きだ。―――意味は?」
「赤い…大地だと」
「そうか…。お前の、瞳の色だな」
 額を合わせられ、焦点がぶれる程近くでかち合った翡翠が、愛しそうに細められる。昨日までと変わらない―――否、こんなに深く、飲み込まれてしまいそうな碧なんて、知らない。
「ロックオン…」
 締め付けられるような思いに、刹那は堪らず瞼を伏せる。
 自らの信念を、願いを託すと告げた時は、この目は容易く彼を映すことが出来
たのに。
「ソラン・イブラヒムはもういない。俺は…刹那・F・セイエイだ。今のお前がニール・ディランディではなく、ロックオン・ストラトスの様に…」
 わかっている、これは逃げだ。
 だからこれ以上、入ってこないでくれ。
 俺はまだ、一番大切な真実をお前に話していない。

 ―――お前が理不尽に奪われた存在を、俺は自らの意思でこの手にかけた。

「……ああ、そうだな」
 喉元に迫り上がる吐き気を押し込め、刹那は目の前の胸元に顔を埋める。ロックオンの長い指が髪に絡み、滑っていくのを、何処か遠くに感じた。
 この腕の温もりの中に安寧を見るようになったのは、一体いつからだったのか。
 けれど自覚はあまりに遅く、気付いた時には全てが手遅れだった。
 失くしたくない。
 失くしたくない。
 失くしたくない。
 だから言えなかった。全てを曝け出したフリをして、最も重い罪からは目を逸らし、心の奥底に沈めた。
「お前の言う通りだよ、刹那」
 違うと、刹那の中のソランが叫ぶ。消えたりなんかしない、ソランが犯した原罪は未だ誰にも裁かれる事無く、それでも刹那の中でいつかの時を待っている。
 深い水面から罪を暴き出し、他でもないお前の手で裁きを下される時を、待っている―――ロックオン。
「刹那……」
 痞える呼吸は、強くかき抱かれた為か、それとも。
 刹那は喘ぐように酸素を求め、腕を伸ばしその広い背中に縋りついた。
 



自分的破格のロク←刹。
19話派生…というか補完話。ホント、なんて因果な二人。

2008.02.19