エクスデスとの激闘の末、バッツは漸く本物のクリスタルを手に入れた。一口にクリスタルと言っても、どうやら様々な形があるらしい。スコールのものと色も大きさも全く違うそれは、バッツが触れるとその輪郭を宙に溶かし、元のチョコボの羽根へと戻ってしまった。
「あれ、元に戻っちゃったぞ?大丈夫なのか?」
「問題ない。必要になれば、ちゃんとその形を取る」
「ふぅん…」
 自身のお守りを興味深そうに矯めつ眇めつするのに忙しいバッツは置いておくとして、スコールはこれからの事を考えようと、首を巡らせる。これで残る問題は、消えてしまったジタンを探すだけだ。―――が、
「……よかったな。探す手間が省けたみたいだ」
「え……?」
 スコールの指差す方へと顔を向ければ、遠くに金色の輝きが見えた。
 太陽の光を集めたような髪と、尻尾を持った少年。
「ジタン!」
 こちらの姿を認めた途端、ジタンの表情がぱっと明るくなったのが遠目にもわかった。幼い子供のような仕草で、大きく手を振っている。屈託のない笑顔を見ると、どうやら怪我もないようだ。
「バッツ!スコールも…!」
 手を振り返し走り出したバッツの後を、スコールも歩いて追いかける。コスモス勢の賑やか担当を自称する彼らの事、早速勝負の結果がどうのと騒ぎ出すに違いない。
 けれど二人の行動は、そんなスコールの想像の斜め上を行っていた。
 駆け寄る速度もそのままに、ジタンがバッツに飛びついたのだ。
 しかし驚いたのはスコールだけだったようで、当のバッツは心得ているとばかりに両腕を広げ小柄な体を抱きとめると、くるりと回って勢いを殺してから、改めて小さな親友をしっかりと抱え直す。背中越し、嬉しそうに左右に揺れるジタンの尻尾は、この時ばかりは普段の彼から連想される猿―――百歩譲って猫だ―――ではなく、構って欲しい盛りの子犬を思わせた。
「よかった、二人とも無事だったんだな…!」
「それはこっちのセリフだろ!大丈夫か?…怪我とか、してないか?」
「おうよ、あんな奴らに後れを取るオレじゃないっての」
「……けど、向こうにジタンを狙ってる奴がいた」
「あー…、クジャの事か。でもアイツは―――って、おいバッツ…ちょっと苦し…」
 最初こそじゃれ合い感覚だったのだろうが、大人と子供程も体格差のある相手に手加減無しに抱きしめられ、たまらずジタンが降参の声を上げる。が、聞いているのかいないのかバッツが力を緩める気配はなく、そこで漸く彼の異変に気付いたジタンが身を捩って彼の顔を覗き込もうとするも、それも叶わない。仕方なしに唯一自由になる腕を伸ばし、肩口に埋まったままの栗毛を撫でてやった。
「―――バッツ?どうしたんだよ…?」
 それでもバッツは返事をするどころか、却ってぐりぐりとこめかみを押し付けてくるばかりで。―――自分が離れている間に、何かあったのだろうか。大きな空色の瞳に困惑を浮かべて、ジタンはスコールに視線を移す。
(何で俺が説明しなければいけない…)
 バッツの名誉を考えるなら黙っておいてやるべきだろうが、ここまで落ち込んでいるのが丸わかりならば構わないだろう。
(手に入れたクリスタルを、自慢するんじゃなかったのか?)
 大方、ジタンの無事を確認して気が抜けたか。年上の癖に、世話の焼ける事だ。
「おまえが無事で、安心したんだろう。いつも騒がしいこいつが、おまえを罠に嵌めたのは自分の所為だと、酷くへこんでいた」
「スコール…っ!」
「ばらされたくなければ、もう少ししゃんとしていろ」
 非難の声を正論で返され、バッツはぐうの音も出ない。一度顔を上げてしまった手前再び伏せてしまう事も出来ず、情けなく眉尻を下げたままジタンへと向き直る。
「ジタン……」
 スコールの言う通り、安心したのもヘコんでいたのも事実だし、ジタンと無事に再会出来たら、ちゃんと謝らなければとも思っていた。今まで彼との間にある四つの歳の差なんて考えた事もなかったが、それでも自分が歳相応にもっとしっかり考えを巡らせていれば、ジタンをみすみす危険に晒す事もなかったのだ。両腕に抱えた体の軽さが、更にバッツの罪悪感を増長させる。
「―――ごめんな。何度も気付ける場面はあった筈なのに、おれ…」
「……べっつに、オレ最初からバッツにそういう思慮深い行動とか期待してないし?」
「うん…―――って、ええっ!?」
 柄にもなくしおらしく謝っていたところに、想定外のカウンターが入った。悲愴感漂う声を上げたバッツに、ジタンは蒼の目を細め笑うと、ふらりと長い尻尾を揺らす。
「スコールがクリスタル手に入れるトコ見てたのに、すぐに気付かなかったオレも悪いんだ。お互い様だって」
「だけど……っていうか、ジタン酷くないか?おれだって色々考えてんのに!」
「色々考えてる奴は、同じような罠に二回も引っ掛かんねーの!」
 途端にいつもの調子に戻った二人に、スコールはひっそりと呆れとも安堵ともつかない息を吐いた。同じように、バッツが消えてしまっていた間のジタンの様子も彼に教えてやろうかと思ったが、面倒な事になるのがわかりきっているので黙っておく。
(所詮、似た者同士という事か…)
 自身を責め、頭の中がそいつの事ばかりになってしまうところまでそっくりだったなど、スコール一人が知っていれば十分だろう。
「……どうした?」
 ふと、言い争う声が止んでいる事に気付き顔を上げれば、未だ仲良くくっついたままのバッツとジタンが、揃ってじっとこちらを見ていた。
 ―――どうにも、嫌な予感がする。
 一歩後退ったスコールの心情を知ってか知らずか、目の前の二人は顔を見合わせると、にんまりと質の悪い笑みを浮かべた。
「スコールーっ!」
「おまえも混ざれよーっ!」
「な……っ!?」
 一瞬の油断が命取り。何もそれは戦闘中に限った事ではなかったらしい。バッツとジタンに同時に飛び掛かられ、流石のスコールも敢え無く芝生の上に沈む。
 二人分の笑い声が弾け、散った緑と一緒に風に運ばれ飛んで行った。





尻切れ御免
だってバッツのストーリー見たら、59は最後絶対抱きあってくるくるすると思ったんだ、先にジタンのストーリー見てたのに…!←
異説ジタンは原作より屈託ないから、ヤローにだって抱きつくよ!←


2009.03.08