「バッツ、まーたオレの武器使ってる」
 最後のイミテーションの姿が崩れ去ったところで、バッツの手元に目をやったジタンがそう呟いた。今の形状こそ盗賊刀と短剣で違うものの、戦いを終えた二人の手には、全く同じ武器が握られている。
「また…?」
「おう、割と。自分のだから、特に目につくだけかもしれないけどな」
 一つ伸びをして自分の武器はさっさと仕舞ってしまったジタンを横目に、バッツは手元の短剣に視線を落としたまま、先ほどまでの戦闘を振り返っていた。
 ―――確かに、そうかもしれない。
「だってさ、ジタンの技が一番真似しやすいんだよ」
「何だよそれ。オレの技が単純だって事か?」
 思ったままに発した言葉は、どうやらマイナス方向に取られてしまったらしい。むっと眉根を寄せたジタンに違う違うと手を振って、バッツは笑う。
「んー…、おれがいつも一緒にいるのがジタンだからかな?」
「……はい? 」
 さりげなく投下された爆弾に、素っ頓狂な声を上げたジタンに気付くバッツでは勿論ない。自分の言葉に納得したように、何度も頷いているばかりだ。
「…そっか。それって、戦ってる姿見る機会も一番多いって事だもんな。だからおれ、ジタンの技が断トツで完成度高いんだ」
 もちろん、それだけが理由ではない。
 戦うジタンの動きは、仲間の中でも殊更に綺麗だ。
 元の世界で役者をやっていたという所為もあるのだろうか。持ち前の身軽さで空中を駆け、双剣を自在に操る姿には一分の無駄もなく、まるで華やかな舞台の上で剣舞でも舞っているように見える。小さな体が翻る度に、一拍遅れて項で束ねた金糸と長い尻尾がその軌跡を追うのもいい。
 だからイミテーションとの戦いの最中でも、ついつい視線が彼の方に行ってしまうし、今思えば咄嗟の時に真似る技もジタンのものであることが多かった。
「確かに、戦ってる時のジタン見るのは好きだけどさ。偏りがあるのはマズいよなぁ、ものまね師として。ちゃんとみんなの技も均等に使ってるつもりだったんだけど……って、ジタン?」
 次からはその辺を意識して戦うようにしなければ。そう決意したところで、先ほどからジタンが一言も発していない事に気付き、バッツは宙に投げていた視線を小さな親友に戻す。
 と、そこには未だ幼さの抜けきらないふっくらと丸い頬を真っ赤に染め、わなわなと震えているジタンがいた。いつもは左右にふらふら揺れている尻尾も今はピンと上向き、心なしか金色の毛並みも逆立っているように見える。
 そのただならぬ彼の様子に、バッツはセピア色の瞳を瞬かせ、ことりと首を傾けた。
「おーい、どうした?」
 熱でもあるのだろうかと身を屈めたところで、べちりと額に手のひらを叩きつけられ、阻止される。割と本気だ。痛い。
 涙目になったバッツに追い打ちをかけるように、ジタンの裏返った絶叫が響いた。

「ヤローにじっと見られても、嬉しくなんかねーっつの!」

 幸か不幸か、それがただの照れ隠しだと教えてくれる他の仲間は、誰もこの場に居合わせなかったけれど。





何故かちょっと59っぽくなりました。ジタンがツンデレ…だと…?(ざわ…)
バッツはストーリーや戦闘中でジタンの武器を好んで使いすぎだと思って出来た話。
対先生とのムービーでジタンの武器が地面に刺さって消える演出とか、何アピールですか。


2009.02.
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