焚き火の爆ぜる音で、ジタンは目を覚ました。
 見上げた空は未だ暗く、白く丸い月が一つだけ、ぽかりとそこに浮かんでいる。特に悪い夢を見ていた訳でもなかった。眠りが深かった証拠に、頭の芯がぼうっとしている。
 のそりと上体を起こせば、小さな体を包む様に掛けられていた毛布が、音もなく肩から滑り落ちた。それを見届けたジタンの眉間に、深い皺が刻まれる。今の仲間の数に対して、一枚しかない毛布。彼が眠りにつく前には、こんなものは掛かっていなかった筈だ。自分の預かり知らぬ所で子供扱いされていた事に対し、寝起きの悪さも相俟って、ジタンの機嫌は急下降していく。
 コスモスによってこの世界に召喚された仲間たちは、揃いも揃ってどうにもジタンを甘やかしたがった。戦力として、認められていない訳ではない。むしろその身軽さで仲間の先陣を切り、敵陣に飛び込んで引っかき回す彼は、ティーダと並ぶ貴重な斬り込み隊長だ。けれど、仲間から見ればまるで子供の様な体格と腰から生えた長い尻尾が、どうやら小動物を連想させるらしく。自分がティナやオニオンナイトと同じ、どちらかといえば庇護対象のカテゴリに入れられている事くらい、ジタンはとっくに気付いていた。知らず、毛布を握りしめる指に力が籠る。
 ジタンが仲間を守りたいと思っている様に、彼らもまた自分を守りたいと思ってくれているのだと、解ってはいる。―――ただ、今までずっと仲間を守り導く立場だったから、この状況に慣れないだけで。
「……ン」
 服の裾を引いてくる、二つの小さな手。自分より年上の癖、どこか危うげな印象が抜けない大人たち。年齢どころか、性別までよくわからない者。血の繋がりこそ無いけれど、大切な家族たち。
 そして、寂しげな瞳と綺麗な歌声を持つ、黒い髪の少女。
 朧げに残る、元の世界に居た時の記憶の断片。―――彼らは、誰?
「ジタン」
 すぐ傍で名前を呼ばれ顔を上げれば、片膝をついたスコールが相変わらずの無表情に分かり辛い気づかいの色を滲ませて、こちらの顔を覗き込んでいた。その背後には、盛大に仰向けに転がって眠っているバッツの姿がある。
 無事にクリスタルを手に入れ、他の仲間と合流するまでの三人旅。
「……どうした?おまえの見張り番はまだだろう」
 ジタンの不穏な空気を察したのか、僅かにスコールがたじろぐ気配がした。革の手袋に包まれた手が伸びてきて、まるで猫の仔をあやすように頭を撫でられる。
「―――毛布、」
「……ああ。おまえが寒そうに丸まってたから、バッツが掛けたんだ。何とかは風邪をひかないと言うし、あいつならそのまま寝てても平気だろう。焚き火も近い」
 さりげなく酷い事を言っているスコールの言葉すら、今のジタンには半分も届いていない。
「あんにゃろー…」
 大きな空色の瞳を眇めると、毛布を手にしたまま立ち上がり、ふらふらと覚束ない足取りでバッツの方へと近づいていく。
「ジタン……?」
 スコールの言う通り、自分と同じくらい―――否、それ以上に薄着のバッツは特に寒そうな素振りも見せず、口を開けて熟睡している。その姿をしばらく見やっていたジタンは、ふんと鼻を鳴らすと徐に持っていた毛布をバッツの上にばさりと落とした。掛けてやるというには余りに粗雑な仕草に、スコールからの物言いたげな視線を背中に感じたが、それは無視する事にする。
 更にダメ押しとばかりに、仰向けの腹の上に倒れ込んでやった。蛙の潰れたような声が聞こえた気もしたが、それも無視だ。ごそごそと身動いで収まりのいい場所を見つけると、くるんと丸くなって目を閉じる。伸びてきた腕に毛布ごと抱え込まれる感覚に、ジタンは内心でそっとほくそ笑んだ。ほら、バッツもやっぱり寒かったんじゃないか。
「全く…。何がしたいんだ、おまえは…」
 呆れを滲ませたスコールの声音と共に、温かい温もりがジタンの体を覆う。頬に触れるふわふわとした感触に、それがスコールの着ているジャケットだと解った。そんな事をすれば彼の方が寒いだろうに。返そうにも、一度降ろした瞼はそう簡単には上がってくれそうにない。まるで守られているような自分の状態にも気付かず、二人分の体温に包まれたまま、ジタンは安寧とした眠りの中へと再び沈んでいった。





これぞ、やまなしおちなし意味なし。ジタンを甘やかしたいのは私です←
ディシディアのジタンは原作より随分幼くて、どうにも可愛い可愛いしたくなりますね!


2009.02.22