コスモス陣営の朝は早い。
 ティナが目を覚ました時には既に隣で眠っていた筈のオニオンナイトの姿は無く、テントの外から賑やかに談笑する仲間の声が聞えていた。今日の目覚まし時計は、どうやら彼らの笑い声だったようだ。
 身支度を整えてテントから出ると、即席で作った釜戸の前にバッツとジタンの背中を見つける。今日の朝食当番は彼らなのだろう。一人旅が長かったというバッツと、何事も卒なくこなすジタンの作る料理は見た目こそシンプルだが味は格別で、ティナは大好きだった。
 気配に聡いジタンが先にティナに気付き、にっこり笑って「おはよう」と手を上げれば、その仕草を真似るようにバッツも続く。まるで仲の良い兄弟の様な二人に、挨拶を返すティナの頬も自然と緩んだ。
「早いな、ティナ。今朝のメニューはバッツ特製、ギザールの野菜のリゾットと沈黙のスープだぜ?」
「ふふ、美味しそう。私にも、何か手伝えること、ある?」
「平気平気、レディは座って待っててくれれば……」
「マジで?じゃあ、火熾すの手伝ってくれるか?」
「………」
 あっさりとティナの申し出を受けてしまったバッツに、ジタンがじとりと睨みを利かせる。大方、当番でもない女の子の手を煩わせるんじゃないとか、そう言ったところだろう。彼の言い分は尤もだが、あからさまな非難の目で睨まれてはバッツも面白くない。拗ねた子供のように、下唇を尖らせて抗議に出る。
「なんだよー、ジタンだって困ってたじゃん」
「そうだけどさー…」
「……火?」
 ことりと首を傾げたティナに、バッツとジタンは神妙な面持ちで頷いた。
「そう。フリオニールもクラウドも朝の鍛錬に行っちゃってさ、火つけ係がいなくなっちゃって。ちょこっとファイアの魔法使ってくれるだけでいいんだけど…だめか?」
「あ……」
 ”魔法”と口にした途端、ティナの表情がさっと曇る。
「バッツのやつ、『誰かのものまねじゃないとファイアは無理〜』とか言うんだぜ?使えねーの」
「仕方ないだろー、おれ魔道士系は向いてないの!」
「ああ、わかるわかる」
「〜〜〜っ、ジタン!」
 けれど、じゃれ合いを始めてしまった二人がそれに気付くはずもなく。
「あの…っ、あのね…」
 控えめな狼狽の声に、漸く二対の目がこちらを向いたのだった。
「ごめんなさい…。私、魔法は…力の加減が、上手く出来なくて…」
 ティナの中に眠る強大な魔導の力は、自分自身でさえ何時抑えが利かずに暴走してしまうかわからない、危ういものだ。
 だから力になれそうにないのだと。今にも消えてしまいそうなティナの言葉に、バッツとジタンは互いの顔を見合わせる。
 しゅん、と萎れた花のように項垂れてしまった少女に対する二人の応えは、しかし至極軽いものだった。
「上手く出来ないんならさ、出来るように練習しようぜ」
「え……?」
「そうそう、オレたちもついてるから!」
「ま、待って…!」
 何とかバッツとジタンを止めようと慌てたティナは、咄嗟にふらふらと揺れていたジタンの尻尾をぎゅっと掴んでしまう。手のひらの中で柔らかな毛並みが逆立つ感触がしたが、謝るのは後だ。
「だめよ、もし二人を傷つけちゃったら…私…」
「大丈夫だよ。ティナの力は、そんな怖い力じゃないだろう?」
「―――でも…」
「何事も、やってみなくちゃわかんないさ。な?」
 それでも尚不安げな表情を隠しきれないままのティナを宥めるように、バッツの手が軽く肩を叩く。
「ほら、先ずは落ち着いて。目を閉じて、深呼吸」
 普段こそ、ジタンやティーダとセットでコスモス陣の問題児扱いされている彼は、けれど人に安心感を与えるのがとても上手い。今も耳触りのいいテノールに言われるまま、目を閉じ深く息を吐きだしただけで、すとんと胸のもやもやが取れた気がした。
「魔力から生まれる力を、怖いと思うからだめなんだ。代わりに楽しいもの、優しいものを思い浮かべるのさ。例えば―――ジタン、何かある?」
「そこでオレに振るのかよ…。そうだなぁ…、昨日みんなで囲んだ焚き火の火…じゃちょっと強いか。―――なら、寝る前にテントの中を照らす、ランプの灯」
「おっ、いいな」
「……ランプ」
「あれも、フリオやクラウドが魔法で点けてくれてるんだ。意外だろ?」
 そう言って笑うジタンに頷いて、ティナは伏せた瞼の裏に久しぶりに迎える事の出来た穏やかな昨晩を思い浮かべる。装備を解いてくるまった暖かい毛布。向い側に座って眠るクラウドを起こさないよう、あの子と声を潜めて遅くまでお喋りをしていた。怖いものなんか何も入ってこないような小さなテントの真ん中で揺れていた、柔らかなランプの火。
(不思議ね…。同じ魔法、なのに)
 あれは、とても優しい炎だった。
「―――灯火よ」
 ポッ、と軽い音と共に、伸ばした手の先、釜戸の中に小さく火が点った。両脇でじっとその様子を見守っていたバッツとジタンが、「おおっ!」と感嘆の声を上げる。
「ほら、ちゃんと出来たじゃないか!」
「サンキューな、ティナ。助かったよ!」
 まるで自分の事であるかのように喜んでいる二人から満面の笑顔を向けられ、ティナの白い頬にほんのりと赤みが差した。
「そんな…。二人が助けてくれたから出来たのよ」
「じゃあその感覚を忘れない内にさ、次はこの鍋に水張ってくれないかなー…なんて」
「はぁ?調子乗んなよ、バッツ。水なら自分で出せんだろ?」
「ううん、いいの。私、やってみたい」
 初めて自分の意思で魔力を制御出来たのが嬉しいのか、目を輝かせてすっかりやる気になっているティナに、女性至上主義のジタンが水を差せるはずもない。
 二人は優しい水のイメージを固めるのに夢中で、それ故に彼らの後方遥か遠くから、物凄い勢いでこちらに向かって走ってくる少年の存在に気付いたのはジタンだけだった。
「……おーい、バッツー」
 ちょっとティナから離れた方がいいかもしれないと。ジタンが親友の身を案じ、忠告するよりも僅かに早く。
「何ティナに気安く触ってんだよっ、このバカバッツ !! 」
「うわっ… !? 」
「きゃ…っ!」
 鬼の形相とは正にこの事。剣を抜くことすら辞さない程の殺気―――約一名様限定で向けられているものだが―――を纏った少年、オニオンナイトが、二人の会話を妨害すべくバッツに捨て身の特攻を仕掛けてきた。
 しかし突然の乱入者に誰よりも驚いたのは、オニオンナイトに飛び掛かられたバッツではなく、魔力のコントロールに集中していたティナの方だったようで。
 可憐な悲鳴と共に空高く上がった水しぶきが、虹を伴い朝日を反射してキラキラと輝く。
 数秒後には全員仲良く濡れ鼠になるだろう事実からは目を逸らしたまま、四人は束の間、その幻想的な光景に見入っていた。

 その後。
 結局この日の朝食は抜きとなり、ティナを除く三人がウォーリアにしこたま小言を食らったのは、また別の話。





どうしてもこの話の着地点が見えなかった…。
59はティナ置いてキャッキャするな(^q^)。自分がバッツに夢見すぎてる自覚はあります←
59コンビと2、10辺りは料理が上手いと思う。他は多分壊滅的


2009.03.22