※リミックスハート15話後捏造 タロとカグラさんが本人のいない所でジンを甘やかしてるだけの話です 「―――っていう事があってさ」 『そうか…』 士官学校男子寮の長い廊下。大きく取られた窓からは、昼下がりの暖かい日差しが燦々と差し込んでいる。 その壁に背中を預け、少年が一人、通信端末に向かって話しかけていた。 無造作に跳ねた黒い髪と褐色の肌を持つ、快活そうな少年だ。しかしいつもは好奇心旺盛な子供のようにくるくると回る瞳は、今は僅かに翳ってしまっている。 彼が持つ術式端末は、ただの一学生が持つには上等過ぎる代物だ。最新鋭のそれは音声だけでなく、映像も一緒に届けてくれる。 端末から宙に映し出された立体画面には、何処か少年と似た雰囲気の男の姿があった。世界虚空情報統制機構衛士最高司令官であり、貴族の頂点に位置づけられている十二宗家の筆頭でもある、カグラ=ムツキだ。 『苦労を掛けるな、タロ。…それで、ジンは?』 タロと呼ばれた少年は、端末から目を離し斜め前にある一枚のドアを見やる。その向こうには、タロの友人二人と顔馴染みの少女が一人いる筈だ。 「今はアカネとツバキちゃんが看てくれてる。呼吸も落ち着いたし…良く寝てるよ」 ルームメイトのアカネに、十二宗家であるヤヨイ家令嬢のツバキ。そして―――タロが秘密裏に、カグラから護衛の任を受けている相手。十二宗家キサラギの次期当主最有力候補であり、士官学校の現生徒会長でもある、ジン=キサラギ。 そのジンが術式を暴走させてから、もうすぐ二時間が経とうとしていた。が、未だ彼が目覚める気配は無く、寝台の上で昏々と眠り続けている。 ジンの傍についていたいのは山々だったが、如何せん今回の事件の発端はタロだ。ジンが目覚めた所で、合わせる顔がないといえばいいのだろうか。心配そうなアカネの視線を背中に感じたが、カグラへの報告を急がなければと自分に言い訳をし、部屋を出てきてしまった。 『ともかく、お前やツバキ…居合わせたお嬢さんたちに大した怪我がなくて良かった。サイファーにも、後で礼を言っとかんとな』 カグラの吐いた溜息に安堵以上のものが含まれていないのを感じ取り、タロは唇を噛みしめる。昨日カグラ相手に大見得を切って直ぐの、この体たらくだ。怒鳴られた方が、よっぽど良かった。 「…ごめん、兄貴」 『ん?』 「俺、ジンジンの護衛なのに…何にも出来なかった」 学園の何割かを氷漬けにしてしまうくらいの術式を使ったジンの顔色は蒼白で、支えた体は事象兵器の影響かひどく冷たかった。苦しげに眉根を寄せ荒い呼吸を繰り返すジンの姿を思い出すだけで、辛い思いをさせてしまった罪悪感と、不甲斐ない自身への憤りで胸が押し潰されそうになる。 暴走するジンの気を逸らしたのはノエルだし、ジンを止めたのはサイファー講師だ。二人がいなければ、タロは護衛対象であるジンはおろか、後輩たちや自分自身さえ守る事が出来なかった。 護衛よりもその対象人物の方が強いだなんて、笑い話もいいところだ。 『余り気に病むな。…お前は、よくやってくれてる』 それに何より、己が操る術式をジンに向けざるを得なかった事が、悔しくてたまらない。この力はジンを守る為のものであって、彼を縛るものではないのに。 「でも…」 『―――ジンの持つユキアネサ…アークエネミーは、使用者の精神を蝕む。それは、お前も知ってるな?』 「…うん」 『あいつが起きたら、傍にいてやってくれ。なるべく…いつも通りに』 「…うん、わかった」 何時になく神妙な顔で頷くと、画面の向こうにいるカグラが苦く笑った。 『すまんな。本当なら、直ぐにでもそっちに行ってやりたい所なんだが…』 「はは、あんま過保護だとジンジンに嫌われちゃうよ?兄貴」 『おい、タロ…』 「大丈夫。俺だって…好きでやってる事だもん」 『―――そうか』 ジンにタロを付けているのは、カグラの一存だ。 血統を重んじず力のみを求めるキサラギ家は、例え次期当主の最有力候補といえど護衛など付けたりはしない。殺されるなら、所詮その者の力量などその程度。当主の候補ならば、養子として迎え入れた"跡継ぎたち"が掃いて捨てるほどいる。 だからキサラギでは、身内同士の暗殺事が後を立たない。 ジンが狙われるのはそれだけが理由でもないようだったが、どういう訳か他家の次期当主候補に過ぎない一人の少年を守る事を、宗家筆頭であるカグラ=ムツキは選んだ。 宗家を纏める者として、一人の人間に肩入れするのは褒められた行為ではない。けれど少なくとも、タロはカグラの意志に賛成だった。だからこうして、体を張ってジンの隣にいる。 (だって、何だか放っておけないんだよ) 後一年足らずとなってしまった学生生活を、何事もなく過ごして欲しい。自分やアカネたちといた日々を、少しでも楽しかったと思ってほしい。そうして出来れば、呆れたような笑みでもいいから笑っていて欲しかった。 「じゃあ俺、そろそろ戻るよ。ジンジンが起きたら、また連絡する」 『ああ、頼んだぞ』 プツリと携帯端末の電源を切りジャージのポケットに仕舞うと、タロは小さく息を吐く。大きな犬のようにふるふると頭を振ると、両手で自分の頬をピシャリと叩いた。 「うっし!」 凹んでいても仕方がない。全ては終わってしまった事なのだから、だったらこれからの事を考えるべきだ。問題ならば、山程ある。例えば、転校生のあの少女―――キリヒト家の刺客が、ジンが弱ってしまっているこの現状を黙って見過ごす筈も無い。 ならば、守らなければ。 「うちの王子様には、指一本触れさせないもんね」 その為に、自分はここにいるのだから。 リミハ14、15話のタロ先輩がイケメンすぎて…ふぅ…。 ただでさえ14話の毒味で滾ってたのに…!タロってばまじジンちゃんのナイト様。 何でムツキ家の親戚がキサラギの次期当主候補にそこまでしてあげてるの?何なの?ラブなの? 2013.09.21 pixivにアップ 2013.09.25 サイト掲載 →TOP |