※BBCPストモのEDネタバレを含みます



 イカルガ連邦第六階層都市ヤビコ。
 十二宗家筆頭であるムツキ家当主が指揮を執る統制機構の支部に、瀕死の傷を負った二名が担ぎ込まれた。
 負傷者は、ノエル=ヴァーミリオン。そして、ジン=キサラギ。
 突如出現したアークエネミー、巨人・タケミカヅチの破壊。そしてクシナダの楔を使い、カグツチに聳える黒い塔を破壊してそこに取り込まれた魂の救出。そのどちらもが無事に果たされた、数時間後の事だった。
「ジン、ノエルちゃん…!待ってて、直ぐに治してあげるからね!」
「待って、私より…少佐を…」
「のえるんだって重傷なの!じっとしてなきゃダメだって!」
 ノエルはまだ意識を保ち話も出来たが、問題はジンだ。金色の髪を、蒼と白の隊服を己の血で重く濡らしたジンに意識は無く、一目で危険な状態とわかる。
 俄かに慌ただしくなった支部内は、混乱を極めた。幾人もの足音が止む事無く行き交い、落ち着かなく空気を揺らす。
「ジン兄様っ、目を開けて下さい…ジン兄様ぁっ!」
「マコト、一旦ツバキを外に出せ。おい、治療班!何やってんだ、早くしろ!」
 この支部の主、カグラ=ムツキは苛立ちに一つ舌を打つと、瀕死のジンに取り乱すツバキをマコトに頼んで部屋の外に連れ出させた。気持ちはわからないでもないが、時は一刻を争うのだ。使えない人間を室内に置いておける程の余裕は無い。
 矢継ぎ早に部下たちに指示を飛ばすカグラに、珍しく血相を変えたヒビキが追いすがる。
「カグラ様、貴方もまだ動き回れるような体では…!」
「んな事言ってる場合かよ!どう見たって俺よりこっちの方がヤバいじゃねぇか!」
 寝台に横たわるジンを挟んで、セリカの向かいに置いた椅子にカグラは腰を降ろす。一心にジンに癒しの魔法を施しているセリカを一瞥してから、彼女と同じようにカグラもまた回復の術式を展開した。
 しかしこうして改めて見たジンの姿は、それは酷いものだった。多くの戦場を駆けてきたカグラでさえ、思わず眉を顰める程に。
 ジンとノエルの体にもこびり付いていた、濃い闇の爪痕。獣による蹂躙の証。こんな芸当が出来る奴など、カグラは一人しか知らない。
 脳裏に浮かぶのは、赤い服に銀糸の青年。
 蒼の男―――ラグナ=ザ=ブラッドエッジ。
「あのバカ、弟妹(きょうだい)相手に何やってんだ…!」
 顔を合わせればいがみ合い、言葉で、力で傷付け合っていた兄と弟。
 互いに口を開けば死ねだの殺すだの物騒な事を言っていた割に、ジンはともかく、ラグナからは怒気は感じれど殺意は全く感じなかった。
 二人の間に横たわる溝は深いが、距離は近い。恐らく、急に近くに置かれた互いの存在に戸惑っていたのだろう。
 ならば早く、その溝を埋めるなり飛び越えるなりすればいいものを、と。カグラは多少の微笑ましささえ持って、蒼紅の兄弟の行く末を見守っていた。

 それが、この有様は何だ。

 ジンの細い体を無残に切り刻んでいる傷は、あと少しで致死量に達する程に深いものばかり。
 明確な、殺意。―――否、破壊の衝動。
 何かあったのだ。あの男の身に…何かが。
 そうでなければ、身内と女子供に甘いラグナが、正気のまま弟妹たちにこんな真似をするとは思えない。
「ったく…。人に死ぬなって言っといて、お前がこのザマかよ…ジン!」
 セリカの魔法とカグラの術式をしても遅々として進まぬジンの治療に、焦燥ばかりが募る。白亜の美貌は血を失い過ぎた所為で青く、生気が抜けまるで精巧な人形のようだ。淡く灯る癒しの光すらもどかしく、カグラはジンの傷だらけの手を取り、直接体内に術式のコードを流し込む。
 絶えず術式を組み続け、流石のカグラも額に汗を滲ませ出した頃。両手で包んだ華奢な指先が、僅かに動いた。ハッと伏せていた顔を上げると、瞼が震え一対の翡翠がゆっくりとその姿を現す。
「ジン…っ!」
「に…さ…」
 緩慢な仕種でカグラを捕らえた瞳は、満足に焦点を結べていない。人影を判別するのがやっとなのか、色を失くしかさついたジンの唇が、兄を―――ラグナを呼ぶ形に動いた。
 間違えているのだ。兄と、カグラを。
「苦し…の…?兄さん…」
 か細い声は頼りなく、酷く弱い。初めて聞く、ジンの声だ。
 薄く開いた翠の目はその表面に水を湛え、湖面のようにゆらり揺れた。
「ごめ…ね…、にいさ…殺し…あ、て…」
「ジン、もういい」
 ぽろり。目尻から零れた涙が、こめかみを伝い流れて行く。
「助けて…あげ…ら、なくて…っ」
「もういいんだ。いい子だから…今はゆっくり休め」
 幾ら指の腹で拭ってやっても、後から後から溢れる滴がジンの肌を濡らす。
 襤褸雑巾のような姿で静かに泣く弟分を見ていられず、カグラは手のひらでジンの目元を覆い隠した。
「ごめ…なさ…」
「泣くなよ。大丈夫だから…」
「にいさん…、ごめん…なさ…い」
 そのまま眠りに落とす術式を掛け、意識を奪う。二度三度と手のひらを長い睫毛が擽り、浅い呼吸が深く穏やかなものに変わるのを待って漸く、カグラは端正な面から手を外した。
「大丈夫さ…。きっと、な…」
 大丈夫。物事に対し楽観的なカグラが、好んで使う言葉だ。
 けれど、転がり落ちた言葉にいつもの覇気は無く。ただ一人それを聞いていたセリカだけが、祈るように瞼を伏せ、労わるようにそっとジンの頬に指を滑らせた。



発売日から2日でストモクリアして、白目剥きながら書きました。
もう3兄弟妹の行く末が不穏すぎて辛い。プラス、ジンがカグラに対して辛辣すぎて辛い(笑)
そしてストモのジンちゃんは何であんなに兄さんにツンツンしてるんですかね?


2013.10.25 pixivにアップ
2013.10.30 加筆修正

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