シャープペンを握っている手を取れば、それは俺よりも少しだけ高い体温をしていた。この手の持ち主から上がった間の抜けた悲鳴はスッパリ無視して、節のあまり目立たない綺麗な形の指を一つずつ、シャープペンから外していく。
 ぱたり、と世界史のノートの上に落ちたそれもやっぱり無視して、親指の腹で手の甲を撫でた。さらりとした肌の感触。悪くない。
「ちょっ、おまっ、何してんの ?! 」
「花村、五月蝿い」
 黙れ。と言外に言えば、途端にしゅんと大人しくなる。ちょっと素直すぎやしないか、お前。まあいいけど。
 更にひっくり返して、手のひらを上に向ける。テレビの中で苦無を握り続けるそこには、潰れたいくつものマメの痕。そのまま指先へと視線を滑らせれば、ジュネスのバイトでついたのだろう、細かい傷が沢山あった。
 ――― 気負いすぎだと。喉元まで出掛かった言葉を、零れる前に飲み込む。
 未だ姿の見えない連続殺人事件の犯人を追う事に対しても、ジュネスの事に対しても。そこがこいつの美点だと解っていても、もう少し―――。そう、もう少しだけ、寄りかかってくれたらと思わずにはいられない。
 そんな事を考えていたら何だか堪らなくなって、俺は自分の欲に忠実に頭を垂らすと、力の抜けたマメだらけの手のひらにキスをした。
 ひゅ、と息を飲む音に目線だけを上に上げれば、耳まで真っ赤にした花村が、釣り上げられた紅金宜しく口をパクパクと開閉させている。あーとかうーとか一頻り唸った後、羞恥に耐えられなくなったのか、花村の頭が机の上にゴトリと沈んだ。空いている左手が、ミルクティー色の髪をぐちゃぐちゃにかき混ぜる。
「……ここ、図書室なんですけど」
「大丈夫。誰も見てないから」
 今更照れるな、可愛い奴め。
 振り払われないのをいい事に、俺は調子に乗って互いの手のひらを合わせると、所詮恋人繋ぎの形に指を絡める。
 机に突っ伏したままの花村は、それでもこの手を握り返してくれるから、益々俺は調子に乗るのだ。
 
 



やまなしおちなし意味なし主花
お前ら、一生やってろ\(^q^)/


2009.05.17